地震火災は、阪神・淡路大震災で大きな被害をもたらした。揺れによる破損で消火栓や防火水槽が使用できなくなる水不足に加え、建物倒壊や道路陥没で現場に到着できなくなり、消火活動は困難を極めた。「通電火災」を防ぐ手だても必要だ。京滋の自治体は被害想定と対応を進める一方で、市民に初期消火の徹底を呼び掛けている。
器具破損で放水困難に 電気復旧し引火も
神戸の街は黒煙に包まれていた。「これだけの大規模な火災をどう対処すればいいのか」。1995年1月17日午後、阪神大震災で甚大な被害を受けた神戸市に応援部隊として向かった京都市消防局消防救助課の織田昌延さん(40)が当時を振り返る。
神戸市役所に到着後、市民が避難する長田区の公園近くで発生した火災現場へ。防火水槽や消火栓が故障し、水が確保できない。数キロ離れた海から取水することになり、5台のポンプ車に計200本のホースをつないだ。器具の破損や不具合で思うように放水できなかったこともあり、消火活動は4時間を超えた。住宅密集地での別の火災では、マンション1棟が全焼した。明け方まで対応にあたったが、消火できたというよりも燃えるものが燃え尽きた、とさえ感じた。
神戸市内では、少なくとも58件が同時に起きるなど計285件の火災が発生し、約83万平方メートルを焼失。559人が命を落とした。「消火が遅れて火の手が大きくなれば、均衡は保てても消すことはできなくなる」。織田さんは、初期消火の重要性を痛感したという。
地震火災は、同時に発生する恐れがある。さらに、電気復旧による通電火災も特徴の一つで、揺れで衣類などが電化製品と接触し、その後の通電によって引火するという。
どの家庭でも起きる可能性があり、被害は拡大しやすい。内閣府が2013年に見直した首都直下地震の被害想定でも、通電火災への対応を挙げている。
京滋で地震が発生した場合も、火災による大きな被害が見込まれる。京都府の想定では、南海トラフ地震で府内は約5万4千棟が焼失するとし、滋賀県は琵琶湖西岸断層帯地震で3800棟の火災被害を見込む。京都市は「震災消防水利整備計画」を策定し、耐震性のある防火水槽や防火井戸を設置した。ただ、震災時には交通機能のまひや断水による消火活動への影響があるとみており、市民に初期消火の徹底を呼び掛けることを、防災計画に盛り込んでいる。
手順確認 被害の拡大防止
実際に地震火災が発生した場合、市民はどのように行動すればいいのか。
消防庁は、地震の揺れが収まるとすぐにコンロやストーブなど火元確認をした上で、ブレーカーを落としてから家を離れるように呼び掛けている。屋外にあるガスの元栓も閉め、被害の拡大防止につなげてほしい、としている。
阪神大震災が発生した1995年に完成した京都市市民防災センター(南区)は、消火器の使い方を学べる消火訓練室がある。実際に体験してみた。
室内に机や衣類が燃える映像が流れ始め、体験用消火器を構えた。手順に従って素早く扱おうとするがホースをうまく外せない。勢いよく飛び出した消火液を、画面に映っている炎のどの部分に向ければいいのか。思っていた以上に慌ててしまった。
初期消火の注意点は、炎全体を包み込むように消火する▽消火器の種類に応じて放射できる時間と距離が異なるために事前確認が必要▽初期消火の目安は天井に火が回るまで(一般的には出火から5分)▽それ以上の場合は避難する、という。
「地震を止めることはできないが、人の力で被害は最小限にできる」。センター指導員で元消防士の加藤賢さんの言葉に、日頃の備えの大切さを再認識した。
【2015年04月28日(火)付京都新聞朝刊より】