阪神大震災では倒壊した家屋や家具による圧迫死が犠牲者全体の8割を超えた。古い耐震基準で建てられた1981年以前の民家やマンションは耐震化が急務だ。しかし、高額な費用がネックとなり、耐震改修の必要性を認識していても工事に踏み切れない住人は多い。行政のさまざまな助成制度を把握し、せめて家具を固定するなど、住まいの安全性を少しでも高めておきたい。

耐震化 費用がネック 寝室のみ補強も補助

 耐震性が不十分な民家やマンションは2015年度、京都府内約19万戸(京都市含む)、滋賀県内約9万1千戸ある。国は阪神大震災を受けて耐震改修促進法を制定し、今年3月までに全住宅の90%で耐震基準を満たすとの目標を掲げた。両府県の耐震化率は向上しているが、いずれも83%にとどまる見込みだ。

 木造住宅の場合、専門家による耐震診断を、京都は実費3千円、滋賀は無料で受けられる。耐震改修工事に府は総工費の4分の3(上限90万円)を、県は1~2割(同50万円)を補助する制度を設けている。

 滋賀では03~14年度、木造住宅9129戸が耐震診断を受けた。うち98%が耐震基準に満たなかったが、耐震改修工事を実施したのは215戸だけ。県は費用が分からないことへの不安を解消しようと、14年度から見積もりも無料にしたが、担当者は「工事費の高さにためらう高齢者が多い」と話す。

 財団法人日本建築防災協会の統計によると、耐震改修工事費は100万~150万円が最も多く、全体の半数以上が190万円以下。ただし、家の規模や造りによっても異なり、500万円を上回る例もある。

 京都市はリフォーム時に耐震化を促そうと、建物のゆがみ直しや劣化した柱の修繕にも補助金を出している。制度が始まった2012年度は約600件の申請があり、その後も件数は高止まりのまま推移し、15年度は700件を超えた。市建築安全推進課は「耐震診断をしなくても申請できるなど、使いやすい点が受けている」とみている。

 内閣府が13年12月に実施した「防災に関する世論調査」では、「大地震が起こった場合に心配なこと」として回答者の65%が「建物の倒壊」を挙げたが、約半数が耐震化を予定していない実態も明らかになった。

 府は4月から、寝室を鋼鉄で補強する「耐震シェルター」の導入に対し、最大30万円を補助する方針だ。家全体の耐震改修と比べると安く、震災直後の圧死を免れられることから一定の需要はあると見込むが、既に実施している滋賀県では6年間で12件、京都市では1件しか申請実績がない。

 府建築指導課の岡田有資担当課長は、阪神大震災を受けて兵庫県芦屋市に出向し、被害の大きさを目の当たりにした。「近い将来、南海トラフの巨大地震発生も予測されている。経費面で建物全体の耐震化に対応できない人に対してもメニューを用意した。命を守るため、耐震の必要性を発信し続けたい」と訴える。

家具固定はすぐできる

 地震発生時に凶器となり得る家具を固定し、寝室には家具をなるべく置かないといった基本的な対策は、今日から始めたい。

 具体的には、たんすや本棚、照明器具をL字型金具やチェーンで固定し、重い物ほど下の棚に入れて重心を低くする。食器棚の扉が開かないようにする専用金具やテレビの下に敷く粘着マット、割れたガラスが室内に散乱するのを防ぐフィルムなどもホームセンターで手に入る。消防庁のホームページが参考になる。

【2016年2月23日(火)付京都新聞朝刊より】